官庁訪問参加者120人の声

ルーベンス
企画官庁訪問

はじめに

国家公務員試験の合格者は、官庁訪問という採用プロセスを経て、省庁からの内定を掴み取ります。
👉官庁訪問の概要についてはこちら

しかし、この官庁訪問という制度は、民間企業の採用プロセスとは特徴がかなり異なっています。
例えば、
○訪問できる省庁に限りがあり、学生の志望順位は省庁側に知られてしまう
○朝8時から夜22時まで1日中かけて採用活動が行われる
○実施時期が6月末〜7月
   など

昨今、国家公務員を志望する学生の減少が問題視されていますが、
その採用プロセスを見直すことは、問題の解決に重要な視座をもたらすと考えました。

そこで、カスミでは、官庁訪問の参加者を対象に官庁訪問に対する評価と改善案を調査しました。


目次

0 回答者の属性
1 官庁訪問の実施形態の優劣とその理由
1-1.官庁訪問の実施形態は、2/3が対面、1/3がオンライン形式を好む
1-2.対面形式では「志望者と話すことができる」、オンライン形式では「待ち時間を自由に使える」が上位
2.訪問数と満足度の関係は、訪問数が1増えると満足度が0.55点高くなる
3.訪問数の選択理由
3-1.【訪問数1】7割が志望する数の省庁に回れているが、2割が体力面での懸念、1割が不透明な選考過程に疑問
3-2.【訪問数2】訪問数1の回答と類似
3-3.【訪問数3】「いろんな省庁の話を聞きたいと思ったから」が5割弱
4.官庁訪問の良かった点・良くなかった点
4-1. 官庁訪問の良かった点
4-2. 官庁訪問の良くなかった点
5.官庁訪問の改善案
5-1. 官庁訪問の制度についての改善案
5-2.各省の取り組みについての改善案
6.まとめ

0.回答者の属性

全回答者120名のうち、訪問区分が事務職が84.2%(101名)、技術職が15.0%(18名)、無回答が0.8%(1名)でした。
また、官庁訪問の訪問先数は、3つが54.2%(65名)、2つが32.5%(39名)、1つが13.3%(16名)でした。

1.官庁訪問の実施形態の優劣とその理由

💡要約

  • 対面形式を望む声が過半数を超える一方で、オンライン形式の方が良いとする回答も1/3以上集まりました。
  • 「第1タームから対面形式だと体力的に厳しい」とする回答もあり、全てのタームを対面形式で行うことへの抵抗を示す意見も見受けられました。

1-1.官庁訪問の実施形態

「第1ターム(オンライン)と第2ターム(対面)どちらの方がやりやすかったか」
と尋ねたところ、以下の図のような結果が得られました。
対面形式を選んだ学生が65.5%(79名)と、半数以上の学生が対面形式にやりやすさを感じたようです。一方で、34.5%(41名)と学生の3人に1人は、オンライン形式の方が良かったと回答しています。(図1-1)

実施形態優劣

1-2.対面形式では「志望者と話すことができる」、オンライン形式では「待ち時間を自由に使える」が上位

💡要約

  • 対面形式が良かったとする理由上位3位は、「他の志望者と話すことができる」が37.5%(45票)、「顔や雰囲気、反応がわかりやすい」と「職員・職場を実際に見ることができた」が同率で17.5%(21票) の順でした。

  • オンライン形式を選択した理由上位3位は、「待ち時間を自由に使える」が最多で43.3%(52票)、「移動時間の負担軽減」13.3%(16票)、 次いで 「面接の用意がしやすい」、「面接時間が事前にわかった」「緊張しなかった」10.0%(12票) の順でした。

 まず、対面形式を選択した集団があげた理由を割合順に見ると、「他の志望者と話すことができる」が37.5%(30票)と最多でした。「他の志望者と話すことができた」の回答をさらに細分化すると、「1人でいるよりリラックスできる」、「情報交換ができた」、「同期となりうる人がわかる」 などの理由がありました。

 次いで「顔や雰囲気、反応がわかりやすい」(17.5%,14票)、「職員・職場を実際に見ることができた」(17.5%,14票)、「オンラインの接続不良がない」(6.3%,5票)の順となっています。(図1-2)

 なお、その他の回答の詳細は、「声が通りやすい」「ボディランゲージを理解してもらえやすい」「カメラ疲れがない」「質問がしやすかった」がありました。

対面理由

 一方、オンライン形式を選択した学生の回答理由を割合の高い順に見ると、「待ち時間を自由に使える」が最も多く、43.3%(13票)でした。この回答をさらに細分化すると、「食事を好きな時間帯に取ることができる」、「自由に休憩することができる」、「仮眠を取ることができる」 と言った理由が挙げられました。

 次いで、「移動時間の負担軽減」(13.3%,4票)、「面接の用意がしやすい」(10.0%,3票)、「面接時間が事前にわかった」(10.0%,3票)、「緊張しなかった」(10.0%,3票)の順になっています。

 なお、「移動時間の負担軽減」は、地方学生に限らず、都内から向かった参加者からも挙げられている意見でした。(図1-3)

オンライン理由

2.訪問数と満足度の関係は訪問数が1増えると、満足度が0.55点高くなる

 官庁訪問の満足度を規定する要因を明らかにするため、t検定を用いて分析した結果、訪問数1の群は訪問数3の群と比較して満足度は有意に低いことが分りました。(p<0.05)

 また、線形回帰モデルを用いて分析を行なった結果、訪問数が1増えると、満足度が0.55点高くなるということが分かりました。

 さらに、同分析により、「拘束時間が長い」、「官庁訪問以前から選考が行われていた」と感じることは満足度に負の影響を与えていることが分かりました。

 以上の結果から、参加者にとってより満足度の高い官庁訪問を実現するためには、多くの省庁を訪問したいと考える参加者の理想を実現できる環境づくりが重要であると考えられます。

 加えて、拘束時間の短縮化、選考過程の透明化も満足度を高めるために効果があると考察することができます。

3.訪問数の選択理由

💡要約

  • 1~2つの省庁を訪問した学生は約6割、3つの省庁を訪問した学生は4.5割の学生が、志望する数と等しい省庁数を回れていました。
    -しかし、 1~2つの省庁を訪問した学生の中には、官庁訪問の体力的過酷さを懸念し訪問数を減らした学生が2割、説明会に参加していないため選考過程に入れないと考えた学生(=官庁訪問前から選考が行われていると考えた学生)が1割近くいました。
  • 官庁訪問参加者に希望する訪問数を回ってもらうためには、①訪問数を増やすことによって生じる体力的な負担の軽減、②選考過程の透明性を高めて、官庁訪問前に選考が行われていないことについて学生側の理解を得る、 以上の2点が重要であると考えられます。

3-1.【訪問数1】7割が志望する数の省庁に回れているが、2割が体力面での懸念、1割が不透明な選考過程に疑問

 1つの省庁しか訪問しなかった参加者に対し、その理由を尋ねたところ、最も高い割合を占めた回答は「志望している省庁がその数だったから」(66.7%,16票)でした。

 次いで、「他にも周りたいところがあったが、体力的に厳しいと感じた」(20.8%,5票)、「説明会に参加してこなかったら回っても意味がないと感じた」(8.3%,2票)の順で割合が高くなっています。

 単願の学生は、概ね志望省庁の数を訪問できていますが、2割の学生が過密な日程により本来回りたい数を回れていません。また、社会人で官庁訪問をする場合、訪問数が限られてしまうという意見もありました。

訪問数1

3-2.【訪問数2】訪問数1の回答と類似

 省庁を2つ訪問した参加者に対し、その理由を尋ねたところ、最も高い割合を占めた回答は「志望している省庁がその数だったから」が60.8%(31票)でした。

 次いで、「他にも周りたいところがあったが、体力的に厳しいと感じた」(19.6%,10票)、「説明会に参加してこなかったら回っても意味がないと感じた」(13.7%,7票)の順で割合が高くなっています。(図3-2)その他を回答した学生の意見は、「教育実習の日程が重なった」、「時間があったから」でした。

 6割の学生が志望省庁数を回ることができている一方で、2割弱の学生が体力面を懸念して回る省庁を減らしており、訪問数1と類似した結果でした。相違点としては、説明会に参加しなければ官庁訪問に参加しても意味がないと考えて訪問しない学生の割合が高くなった点があげられます。

訪問数2

3-3.【訪問数3】「いろんな省庁の話を聞きたいと思ったから」が5割弱

 最大である3つの省庁を訪問した参加者に対し、その理由を尋ねたところ、最も多かった回答は「いろんな省庁の話を聞きたいと思ったから」で46.3%(37票)、「志望している省庁がその数だった」(45.0%,36票)が続き、2つの回答が合わせて9割を占めました。

 その他を回答した学生の意見は、「途中のクールの結果を受けて他の省庁も訪問したいと思ったから」、「当初は2つ訪問予定だったが、3つ目の省庁から電話がかかってきたから」でした。

 省庁を3つ訪問する学生は、意図的かつ積極的に多くの省庁を訪問していることがわかります。

訪問数3

4.官庁訪問の良かった点・良くなかった点

💡要約

  • 官庁訪問の良かったところ上位3位は、「いろんな職員と話すことができて楽しかった」が90.8%(109票)、次いで「話が聞ける人数が多く、組織や人のことがよくわかった」が61.7%(74票)、「自分の働きたい職場がどこか考えることができた」が58.3%(70票) の順でした。
  • 官庁訪問の良くなかったところ上位3位は、「無駄な拘束時間が長い」が60.8%(73票)、次いで「評価軸が不明」が49.2%(59票)、「官庁訪問以前から選考が行われていると感じた」が31.7%(38票) の順でした。
  • 官庁訪問が目指す、政策や参加者の持つ問題意識について、多くの職員方から直接話を聞くことで、各省庁についての理解を深め、将来自分が働く場所を考えるという目的は達成されていると分かりました。
  • 一方で、参加者目線での官庁訪問の改善点としては、無駄な拘束時間の短縮や、評価プロセスの透明性を高めること、日程の過密さの緩和、人事院の官庁訪問規則の遵守、などを求める声が多いのも現状です。

4-1.官庁訪問の良かった点は「いろんな職員と話すことができて楽しかった」が上位

官庁訪問の良かった点について尋ねた回答を割合の高い順に見ると、「いろんな職員と話すことができて楽しかった」が(90.8%,109票)と最も多かった。次いで「話が聞ける人数が多く、組織や人のことがよくわかった」(61.7%,74票)、「自分の働きたい職場がどこか考えることができた」(58.3%,70票)、「志望者と話すことができた」(56.7%, 68票)の順となっています。(図4-1)

 なお、その他の回答の詳細は、「自分という一個人の進路選択に寄り添ってくれたから」、「自身の課題意識が職員の方とのディスカッションで磨かれたから」、「政策過程の裏話について聞くことができた」などでした。

良かったところ1

4-2.官庁訪問の良くなかった点は「無駄な拘束時間が長い」が上位

 官庁訪問の良くなかった点について尋ねた回答を、理由を割合の高い順に見ると、「無駄な拘束時間が長い」(60.8%,73票)が最多でした。

 次いで「評価軸が不明」(49.2%,59票)、「官庁訪問以前から選考が行われていると感じた」(31.7%,38票)、「出口面接が10時以降にあった」(30.0%,36票)、「日程の過密さ」(26.7%,32票)の順となっています。(図4-2)

 なお、その他の回答の詳細は、「日程に融通が効かない点」「オフラインの際、定時以降に冷房が切れて非常に暑かった」「機材の不足を理由に強制的に一部の受験者の訪問日を変更させていた。」などでした。

良くなかったところ2

5.官庁訪問の改善案

💡要約

  • 官庁訪問の制度については、日程の過密さ、第4・第5タームの存在、評価・透明性、官庁訪問の実施時期についての改善案が集まりました。
  • 各省の取り組みについては、時間・スケジュール、評価・透明性、関係性・マナー、官庁訪問以前の採用活動についての改善案が集まりました。

5-1.官庁訪問の制度についての改善案

 日程の過密さについては、終電時間を確認されるなどの処遇を問題視する意見が多く見られました。
改善案としては、タームごとに休日を設ける、特に第3タームの前に休日が欲しかったという意見が最も多かったです。
 また、選考フローを明確にして書類選考の段階から選考人数を絞り、人事面接の日程を人によって選択できるようにするという提案もありました。

 第4・第5タームについては、事実上第3タームで内々定を示唆される学生が多い中、その存在の意義を明確にする、あるいは廃止するという意見が多く寄せられました。合わせて、第3タームについても、第3タームの2日目に訪問したかったという意見もありました。
人事院の提示するターム数と各省の選考過程のすり合わせが重要であると言えるでしょう。

 評価・透明性については、官庁訪問のプロセスや日程、評価を含め、見える化を求める声があげられました。また、省庁ごとの評価の言葉の違いによって、困惑したという学生の声も寄せられました。

 官庁訪問の実施時期については、選考時期が遅すぎて民間への人材流出を危惧する意見がありました。また、省庁側に志望順位を知られることは学生にとって不利であるため、形骸化している一斉スタートをとりやめ、実施時期を早めることで、民間のように各省庁独自の採用活動を行って欲しいとする意見もあがりました。

 その他の意見として、冬の官庁訪問を活用しやすくする、「官庁訪問前の採用活動に選考要素はない」という建前をやめる、訪問省庁数の縛りを無くす、などの意見がありました。

5-2.各省の取り組みについての改善案

 時間・スケジュールについて、面接の回数や時間の詳細をもっと明確に伝えてほしいとする声が多かったです。また、22時までに終了してほしいとする声や、若手社員とのフランクな会話の機会を設け、時間を有効に活用してほしいという意見もありました。

 評価・透明性については、どこを評価してくれているのか知りたい、大体何番目くらいなのかを知りたい、とする意見がありました。

 関係性・マナーについては、オワハラをしない、当落の連絡を一斉送信でいいからしてほしい、学生も今後政策を享受する一国民であるということを忘れないでほしいという意見が寄せられました。

 官庁訪問以前の採用活動については、OB/OG訪問をもっと活用できるようにしてほしいという声がありました。

6.最後に

最後までご覧いただきありがとうございました。上記の通り、官庁訪問は「参加者の省庁に対する理解を深め、将来自分が働く場所を考える」という本来の目的は達成されている ことがわかりました。
しかし一方で、拘束時間の長さや、採用プロセスの透明性、民間就活から遅れをとっているといった課題が多いことも本調査から浮かび上がりました。

官庁訪問の制度は、霞ヶ関の内側からだけでなく、いわゆる外圧としての世間の問題意識がなければ改革を促すことは難しいでしょう。
本稿がこの問題に一石を投じることができれば幸いです。

【調査概要】

調査名:「2021年度官庁訪問に関するアンケート調査」

実施:学生団体×KASUMI

調査方法:Googleフォーム(Twitterと国家公務員志望支援団体のコミュニティにて拡散)

回答者:官庁訪問参加者120名

調査期間:2021年 7/15~7/31

調査目的:2021年度の官庁訪問の実態を把握し、来年度以降の官庁訪問をより良い採用活動の場として活用してもらうため

この記事を書いた人

ルーベンス
ルーベンス
地方大学文系4年。極度の方向音痴だが散歩好き。趣味は祖父母とのLINE。座右の銘は「才能は有限 努力は無限」。

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